くりっく365 比較の体験記
もともと短期金利は、公定歩合の変更といった経済情勢に特段の変化がなければ、ある一定値の回りをフラフラ動く(ブラウン運動する)ものである。
確かに上で紹介したどのモデルも、この金利の「平均回帰現象」を説明するために、様々な工夫をこらしている。
しかし確定的に変動する部分、ドリフト項とは一体何なのか。
そんなものはほとんどゼロではないのか? しかし、これを経済学者の前で口にする勇気はなかった。
直ちにこの博士論文を取り寄せてみた。
そしてA氏の驚くべきパワーに、再び叩きのめされたのである。
M大学の博士論文の中でも、これだけ凄い内容のものは一〇年に一つも出ないであろう。
この論文が如何に高く評価されたかは、A氏が卒業後直ちにG大学の準教授に迎えられたことが示している。
さて問題はその後である。
何人かの経済学者に、この結果をどう思うか尋ねてみた。
・有力な経済学者Y氏“そんなことは前から分かっていた”〈分かっていたなら、何でそう言わないのか‐‥〉。
・若手の経済学者S氏“あれはアメリカの結果でしょう。
日本は日本でまた違いますよ”〈そうかもしれない。
でもそんなに違うものだろうか‥〉。
・金利モデルの専門家X氏“日本市場は遅れているから、金利モデルが当てはまらなくても不思議はありませんよ“〈だったら、なぜアメリカでしか成り立たない金利モデルを、日本で研究しているのか?〉。
その後の状況はといえば、依然として従来のモデルは健在である。
金利オプションや、様々な金利感応商品の価格計算には、依然としてCIRモデルなどが用いられている。
まず理論を優先する金融「経済学」ならそれでもいいのかもしれない。
しかし、現実に重きを置く金融「工学」となると話は別である。
工学の世界では、実際のデータによって否定されたモデルを使うわけにはいかないからである。
残念ながら、A氏のモデルをもとに、債券や金利を原資産とするデリバティブの価格公式を求めるのは容易ではないようである。
しかし、現在の数値解析技法やシミュレーション技法でもってすれば、A氏のモデルによって債券オプションや金利オプションの価格を計算することは十分に可能である。
以上では、短期金利モデルについて説明してきたが、これは一週間とか一ヵ月、長くても一年程度の期間を対象としたモデルである。
これに対して一年以上の期間にわたる金利は長期金利と呼ばれる。
長期金利の水準は、国債の利回りなどから推定することが可能である。
しかしこれは投資家たちの将来に対する”予想”を数値化したものであって、この金利水準が将来実現されるという保証はない。
では長期金利はどのように変化するのだろうか。
ここで考えられたのがS氏のファクターモデルである。
これは長期金利(こと短期金利)が二次元のブラウン運動に従うと仮定して組み立てられたものである。
しかし、このモデル自体は理論的な間違いを含んでいるという話であるし、仮に正しいとしても、一次元(短期金利だけ)の場合の分析から分かるとおり、実際のデータによる検証をパスするためにはかなりの工夫が必要であろう。
このほか(長期)金利モデルとしては、フォーワードーレートの動きを多次元ブラウン運動として記述するHJMモデルや、BGMモデルなどがある。
いずれも数学的に精緻を極めたモデルである。
しかし。
パラメータの推定の難しさなどを考えると、これらが工学的な意味で安心して使えるモデルに進化するまでには、まだまだ時間はかかりそうである。
最後に経済学者に叱られるのを覚悟で書けば、長期金利をブラウン運動によって記述することができる、という前提自体に疑問を持っている。
これに対しては、ブラウン運動の外に、公定歩合の変化などの突然の急激な変化を記述するための項(例えばポアソン過程)を導入すれば、長期金利の動きを記述できるはずだ、等々、様々な反論が出るだろう。
しかし原理的に可能であることと、実際のデータによる検証をパスするモデルを組み立てることとの間には、大きな隔たりが存在するのである。
超低金利政策が続く中で、マンション販売が好調だという。
長い間史上最低水準にあった住宅金融公庫の貸出し金利も、これから先もう下がることはないだろうし、住宅ローン優遇減税も間もなく打ち切られるとあっては、人々がマンション購入を急ぐのも無理はない。
一九九六年の春、マンション購入にあたって、住宅金融公庫と二〇年固定、年三・一%のローン契約を、また残額については、S銀行と三年固定の変動金利契約(はじめの三年は年二・九%の固定金利、それ以後は変動金利という契約)を結んだのである。
年末の住宅ローン減税で、少なくともはじめの三年間は、金利負担が三〇万円ほど減額になる。
また銀行への返済金の中には、生命保険料が含まれているし、住宅金融公庫ローンに伴う団体生命保険料も、五〇代半ばの熟年層にとっては、大変格安である。
こうして細かく計算してみると、実質的な金利負担は年二%を下回る。
また二〇年後の完済を待たずに死んでしまえば、ローン残額は保険会社が負担してくれる(しかも、その可能性は決して小さくない)。
こう考えて、契約書にハソコを押しながら、思わず口笛を吹いたのであった(その後の一層の金利の低下と、マンション価格の下落を予想しなかったのは大失敗だったが)。
減税額は政府の負担、保険金は保険会社の問題だとはいうものの、住宅金融公庫は、二〇年間にもわたって、年三・一%(現在では二・八五%)という低金利を約束してしまって大丈夫なのだろうか。
住宅金融公庫の場合は、万一の場合は国が助けてくれるので心配ないが、それでは自己責任経営の銀行はどうしているのだろうか。
ここに用意されているのが、変動金利契約である。
市場金利に一定率の手数料を加算し、一定期間ごとに金利を改訂する契約である。
こうしておけば、お金を借りた側か金利変動リスクを負担し、銀行はリスクを負わずに済む。
しかしその一方で、銀行は固定金利契約も受け付けている。
S銀行の場合、一〇年契約の固定金利は、年三・六%に設定されている。
もちろんS銀行は、市場に流通している国債価格などをもとに、将来の市場金利を推定し、これに手数料を上乗せして、十分な利益が確保されるように金利水準を設定しているのであるが、それでも将来何か起こるかは分からない。
事実、米国の貯蓄信用組合(S&L)は、八〇年代はじめの“思いもかけぬ”金利上昇によって、破綻に追い込まれたのである。
ここで役に立つのが金利スワップである。
これはS銀行が固定金利リスクをヘッジするために、別の金融機関Tとの間で、固定金利を変動金利と交換する契約である。
すなわちS銀行は、三・六%の固定金利をT社に譲り渡し、その代わりにT社に対して、市場に連動した変動金利を支払う、という契約を結ぶのである。
こうすれば、S銀行は実質的に、変動金利で住宅ローンを貸出したのと同じことになる。
住宅ローンの証券化 最後は、金利スワップを行ったあとも残ってしまった固定金利契約である。
このリスクをヘッジするために考え出されたのが、ローンの証券化である。
銀行がローンを小口の債券に組み替えて、市場で販売するのである。
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